リンパ浮腫とは

リンパ浮腫とは

リンパ浮腫の仕組みや治療法について

リンパ浮腫の基礎知識

リンパ浮腫は、がん治療の後遺症として起こる可能性がある病気です。
発症すると完治は難しいものの、症状に早く気付き、適切なケアを続けることで、悪化を防ぐことが可能です。そのためにも、リンパ浮腫について正しい知識を持ちましょう。

1. リンパ浮腫とは

リンパ浮腫とはどんな病気?

リンパ浮腫とは、体内のリンパ管やリンパ節が何らかの理由で損傷することにより、リンパ液が体内に漏れだし、腕や脚にたまってむくむ病気です。

リンパ浮腫には生まれつきリンパ管やリンパ節に問題があるため発症する「原発性リンパ浮腫」と、手術などで損傷を受けて発症する「続発性リンパ浮腫」に分けられます。
続発性リンパ浮腫の大半は、がん治療の手術により、がん病巣の近くにあるリンパ節を切除(リンパ節郭清)した後の後遺症として発症します。手術以外にもリンパ節に放射線を当てた場合や抗がん剤の影響で発症することもあります。がん治療以外では交通事故などで広範囲に外傷を受けた場合や、静脈血栓、血管障害などでも局所がむくむことがあります。

リンパ浮腫を引き起こしやすいがんは、乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、大腸がんなどが挙げられます。このうち上肢(腕)のリンパ浮腫のほとんどが乳がん、下肢(脚)のおよそ9割が子宮がん・卵巣がんと言われており、がんにおいては圧倒的に女性の発症率が高いというのが実情です。

一度傷ついたリンパ管は正常に戻ることがなく、リンパ浮腫になると完全に治すことはできません。また、進行性であるため、早い時期から適切なケアを行い、むくみを改善させ、良い状態を維持することが大切です。

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血液と密接な関係・・・リンパのしくみ

人が生きていく上で、なくてはならない血液は、血管によって全身をくまなく巡っています。血管には動脈と静脈があり、心臓から酸素や栄養を豊富に含んだ血液が動脈によって全身の細胞へ送り届けられ、細胞が排出した二酸化炭素や老廃物を静脈とリンパ管で回収して心臓へ戻し浄化するという「循環」を絶えず繰り返しています。
私たちの体を作っている細胞は一つ一つが生きていて、この循環によって健全な状態が維持されているのです。

「リンパ液」と「リンパ管」と「リンパ節」の関係
では、どのように酸素と栄養、二酸化炭素と老廃物の受け渡しが行われているのでしょう。動脈、静脈の先端はそれぞれ髪の毛よりも細い毛細血管になっていて、動脈と静脈の毛細血管はつながっています。また、毛細血管の壁は水分などの出入りができるような構造になっています。細胞と細胞や毛細血管の間には、組織間液(間質液ともいう)という体液が流れていますが、動脈側の毛細血管からしみ出た酸素や栄養は組織間液にのって細胞に運ばれ、引き換えに排出された二酸化炭素や老廃物を受け取って、静脈側の毛細血管に回収されます。
ただし、毛細血管で回収できるのは9割ほど。残りの1割は「リンパ管」によって回収されます。つまり、静脈とともに不要物の回収をするのがリンパの役割です。このリンパ管で運ばれる組織間液を「リンパ液」とよびます。
リンパ液には不要なたんぱくや脂肪が含まれており、透明からやや黄みを帯びています。

循環

このようにリンパ液は血管とは別のリンパ管ルートをたどり、最終的に鎖骨の静脈で合流して心臓へ戻されるのですが、その間にはリンパ管が集まった「リンパ節」をいくつも通過します。リンパ節ではリンパ球などの免疫細胞が待ち構え、リンパ液に異物(細菌やがん細胞など)が混入していないかチェックし、外敵を排除し、血液から全身に広がらないようにする、関所のような役割を果たしています。

リンパの流れ

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リンパ浮腫の進行とリンパ管の変性

全身の中でも特に大きなリンパ節はわきの下や、骨盤・そ径部といった、四肢の付け根に存在しています。
そのため、リンパ節の郭清などでリンパ節やリンパ管が損傷を受け、行き場を失ったリンパ液が四肢にたまると、むくみます。ただ、それで終わりではありません。
リンパ管やリンパ節が損傷すると、近くにあるリンパ管が代わりに吸収を引き受けるのですが、回収量が増えて管内圧が高まった状態が続くと、リンパ液の逆流を防ぐ弁機能が働かなくなるなど、リンパ管が機能不全に陥ります。また管が破れないようにリンパ管の壁が厚く硬く変性します。変性が進むことで管の内腔がどんどん狭くなっていくと、リンパ液が外へ押し出され、ますますむくむという悪循環に陥ります。
さらにリンパ管の変性が進み慢性的にむくむと、リンパ管に回収されにくくなった脂肪は皮下組織に沈着し、より腕や脚が太くなります。同様にたんぱくは皮下組織の繊維化を招き、重症化すると皮膚が硬くデコボコすることもあります。
このように重症化させないためにも、日頃からリンパの流れを促し、むくみを減らすことが重要です。

リンパ浮腫の進行とリンパ管の変性

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リンパ浮腫の病期分類

リンパ浮腫の症状の進行に合わせて0~3期で表します。

リンパ浮腫の進行とリンパ管の変性

(出展「Q&Aで学ぶリンパ浮腫の診療」日本がんサポーティブケア学会)

重症度に関係して出現しやすい自覚・他覚症状は下記のようなものがあります。
軽 度:こわばりや重だるさ、疲労感、違和感
中等度:重苦しさ、痛み、感覚異常、皮膚の圧迫感、肌がカサカサする
重 度:蜂窩織炎(ほうかしきえん)を繰り返しリンパ漏や皮膚表面の硬化
*医学的にリンパ節郭清をした時点で、0期と考えられています。ただし郭清をしたからといって必ずリンパ浮腫になるわけではありません。

リンパ浮腫の根本の問題であるリンパ管の変性・損傷は不可逆的(元の状態に戻らない)なため、重症化する前の中等度までに医師に相談したいものです。

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2. リンパ浮腫の予防と発症の気付き方

リンパ浮腫かな、と思ったら

術後の後遺症に出てくるリンパ浮腫のおもな初期症状は、リンパ節を摘出した側の腕や脚が、痛みがないのにむくみ、重だるく感じることです。乳がんの場合は腕やわき、背中。子宮がん卵巣がん、前立腺がん、大腸がんは、下半身に。それぞれ違和感があったら注意して観察しましょう。

リンパ浮腫によるむくみは、放っておいても完全に引くことがないのが特徴です。また、重症化させると症状緩和にかなりの時間がかかります。リンパ浮腫かな? と思ったら放置せず、担当の医師に相談し、早めにリンパ浮腫専門の医療者や施設を紹介してもらいましょう。初期の段階から適切なケアを始めることがとても大切です。

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日常動作で気を付けたい浮腫予防

がんの治療を受けた人の中でも、リンパ節郭清をしていると、リンパ浮腫のリスクは高くなります。乳がんのセンチネルリンパ節生検も浮腫の発症リスクはゼロではありません。発症を避けるためには、発症や悪化の引き金となる要因を知っておくことが大切です。

感染・炎症

小さな傷口から細菌が侵入し、感染・炎症が起こると、リンパ浮腫を発症、悪化しやすくなります。たとえばケガや虫刺され、過度の日焼け、水虫、巻き爪、植物やペットによる外傷などが発症のきっかけになることがあります。
<心がけたいこと> 保湿や日焼け止めなど、日頃のスキンケアで肌のバリア機能を高めておきましょう。深爪や、シェーバーでのムダ毛剃り、産毛剃りも傷を作るので気を付けましょう。ガーデニングなどの土いじりをする際は、四肢の露出を避け、手袋を着用しましょう。水虫や皮膚病は治しておきましょう。

肥満と運動不足

太り過ぎで皮下に付いた脂肪はリンパ管を圧迫し、浮腫の発症、悪化につながります。特に上肢の発症・悪化につながりやすいと言われています。
<心がけたいこと> 適度な運動やバランスの良い食生活で、体重コントロールに努めましょう。適度な有酸素運動は、特に上肢においてリンパ浮腫の予防に効果があるとされています。既に発症している場合でも、悪化を防ぐために体重コントロールはとても大切です。

疲労・ストレス

過度の運動、育児や介護、引っ越しや法事、重い荷物を長時間持つ、同じ姿勢での長時間作業、仕事や旅行、刺激の強いマッサージなど、疲れがたまったことがきっかけで、発症や症状が悪化することが多いようです。窓ふきや草刈りのように反復運動を繰り返すことが引き金になるという報告もあります。
<心がけたいこと> 集中作業や体力を使う作業をするときは、小まめに休憩を入ましょう。頑張り過ぎるライフスタイルを見直し、リラックスを心掛けましょう。

体の締め付け

衣類や装飾品の締め付けがリンパ管を圧迫し、発症・悪化の原因になることがあります。
リンパ液の流れを妨げないようにしましょう。
<心がけたいこと>

  • ゴムや袖口、わきや股の締め付けの強い下着や衣類を避ける(四肢)
  • きつい腕時計・ブレスレット・指輪を避ける(上肢)
  • 重たいカバンや荷物を患肢に引っかけて持たない(上肢)
  • 正座やしゃがむなどの反復、立ちっぱなしなどの同じ姿勢を避ける(下肢)
  • 飛行機に乗る際は、サポートタイプのストッキングを着用する(下肢)
  • きつい靴は避け、柔らかい素材のものを選ぶ(下肢)

リンパ節を郭清した時から、いつか発症するのではと不安を抱いている人はとても多く、発症したらいろんなことをあきらめなければならないと悲観する声もよく聞かれます。ただ、郭清後に必ずリンパ浮腫になるわけではなく、なったとしても、症状を放置せずにむくみをコントロールすることで、以前と変わらず仕事や趣味、おしゃれを楽しんでいる人はたくさんいます。「知識は最大の自衛力」、正しい知識を深め、上手に付き合っていきたいですね。

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リンパ浮腫の初期自覚症状

リンパ浮腫は、がん治療後3年以内に発症することが多いのですが、5年、10年、15年経ってから発症することも珍しくありません。治療した側の四肢にこんな症状があったら、リンパ浮腫かも?と疑いの目を持つことが大切です。

むくみ始めの兆候

  • 重い感じがする
  • だるく疲れやすい
  • 腫れぼったい、むくみを感じる
  • 腕や脚が動かしにくい
  • しわが目立たなくなった
  • 静脈の見え方に左右差がある
  • 皮膚が張ってつまみにくい
  • 痛みやしびれがある
  • 腕や脚の太さに左右差がある

上肢

  • 指輪、腕時計、袖口をきつく感じるようになった
  • 下着やブラジャーの跡が付くようになった
  • 手を握ったり開いたりする時に違和感がある
  • 物を落としやすくなった
  • 手術側の腕を指で押すと痕が付いたままになる
  • 家事や仕事の後に、何となく腕が太くなる

下肢

  • 普段通りの生活で腰回りが太った・腫れぼったいと感じる
  • 腹部やそ径部がシクシクする
  • 陰部が部分的に腫れぼったい
  • 片側のそ径部や内またがたまに膨れる
  • 立ち仕事や歩くと気になるだるさを感じる
  • 以前より靴や下着がきつく感じる
  • 以前より正座がしにくくなった

リンパ浮腫発症時の症状や感じ方はさまざま。気になることがあれば、主治医の先生からリンパ浮腫専門の医療者を紹介してもらうようにしましょう。

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むくみが生じやすい場所

上 肢

むくみは、リンパ節を摘出した側の腕、わき、前胸部、背中などに生じますが、特に二の腕の内側やわきの周辺、背中などから症状が出始める例が多くみられます

上肢

下 肢

骨盤内のリンパ節を摘出した場合、脚、下腹部、そ径部、陰部などにむくみが生じますが、特に脚の付け根辺り、陰部、太ももの内側から症状が現れ始める例が多くみられます。

下肢

むくみが出る場所

初期に症状が起こりやすい場所

むくみが出る場所 初期に症状が起こりやすい場所

リンパ浮腫を早めに見つけるためのポイント

むくみの予兆に気付くために日ごろからチェックしたおきたいポイントを紹介します。

1. 自覚症状を見逃さない
【リンパ浮腫の初期自覚症状】【むくみが生じやすい場所】を頭に入れておきましょう。
2. 肌の状態をチェック
むくむ可能性のある部位の周辺をつまんだり、押してみて、肌に変化がないか観察しましょう。スキンケアは自覚症状のない0期から取り入れたいケア。毎日肌を触ることで、変化に気付きやすくなります。
3. 腕や脚の太さを測定する
発症前から定期的に左右の腕や脚の太さを測っておくことがおススメです。月に1度、朝や夜など時間を決めて、体重とともに周径を記録しておくと変化を客観視できます。

 腕 
①指の付け根
②手首
③ひじから5cm下
④ひじから10cm上

 脚 
①指の付け根
②足首
③ひざから5cm下
④ひざから10cm上
⑤脚の付け根

 腕 
①指の付け根
②手首
③ひじから5cm下
④ひじから10cm上

 脚 
①指の付け根
②足首
③ひざから5cm下
④ひざから10cm上
⑤脚の付け根

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3. リンパ浮腫の診断

少し前まで、続発性リンパ浮腫は、医師による問診と、症状の経過やむくみの状態、健常側の太さとの比較などの視触診、超音波検査からリンパ浮腫と診断されていました。
しかし現在は、リンパ管シンチグラフィーやICG(インドシアニングリーン)蛍光リンパ管造影検査により、症状の進行度を判断する画像診断が主流になっています。
現在のリンパ浮腫がどの段階か、正確に評価し適切なケアにつなげるために、正しい診断ができる病院選びが大切です。

① リンパ管シンチグラフィー

全身の深い部分のリンパ管も見ることができる検査。注射した薬剤がリンパ管に取り込まれ、リンパ管の機能評価や、リンパ液のたまっている部位などを判別します。

② ICG蛍光リンパ管造影検査

ICG(インドシアニングリーン)という薬剤を注射し、深さ1~2cmくらいまでのリンパ管の観察が可能です。

③ 超音波、MRI、CT

従来から行われている画像診断術。超音波は局所的な、MRIは全体的なリンパ貯留や脂肪沈着を詳細に観察するのに優れており、①・②と合わせリンパ浮腫の重症度診断を補助します。またリンパ浮腫は静脈性浮腫(静脈瘤や静脈内血栓などが原因で起こる浮腫)と併発していることも少なくなく、超音波や造影CTは、リンパ浮腫か除外診断(別の病気の可能性を除くための診断)や静脈性浮腫の併発がないか細かく調べるために有用です。

④ 新しい診断法 超高周波超音波

従来の高周波超音波よりも高解像のスキャンが可能な超高周超音波を用いることで、皮下組織の状態やリンパ管がどの辺りで詰まっているのかなどリンパ管の変性を、造影剤を用いずにより正確に鮮明に捉えられるようになりました。超音波なので体への負担がないこともメリットです。

リンパ浮腫による痛みやだるさなどの自覚症状があっても、見た目に左右差があまりないと、乳腺科や婦人科などの外来で見過ごされがちです。
その場合、リンパ管の画像検査を行うことでのみ、リンパ浮腫の確定診断が可能です。自覚症状が継続・増悪する場合は、がん治療の担当医に勇気を出して、リンパ浮腫治療を専門的に行っている施設で一度診察や画像検査を受けたい旨を伝え、紹介してもらうか、受診希望の医療機関があれば紹介状を書いてもらいましょう。

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4. リンパ浮腫の治療法

リンパ浮腫が発症したら、早めの治療が肝心です。現在のリンパ浮腫の治療の目的は、症状軽減ですが、治療法にはいくつか種類があります。
複合的治療は、リンパ浮腫のどの段階でも続ける必要がありますが、定期的、あるいは浮腫に変化がみられたときにはその都度病院で浮腫の重症度の評価をし、治療の見直しや、外科的手術の検討などをしましょう。

リンパ浮腫の治療法

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第一選択肢は「複合的治療」

リンパ浮腫部のリンパの流れを良くして、症状を改善し、悪化させないために5つの治療を複合的に行う治療です。医師や専門機関で指導を受け、普段からセルフケアを習慣にすることが、リンパ浮腫のどの段階でもとても大切です。

① 圧迫療法

むくみがある部位に圧をかけて、リンパ浮腫の逆流を防ぎ、むくみを軽減する方法です。弾性包帯は医療機関のリンパ浮腫を専門としている医療者から巻き方の指導を受けます。弾性着衣(上肢は弾性スリーブ・グローブ。下肢は弾性ストッキング)は自分のサイズに合ったものを毎日装着します。

弾性着衣はメーカーによってサイズや特徴がさまざまです。自分に合わないものを使用すると逆に悪化する可能性も。医療者の指導のもと、自分に合った弾性着衣を根気よく選ぶようにしましょう。

② 用手的リンパドレナージ

たまった組織間液を、正常に機能しているリンパ管に誘導して流すことで、むくみを改善します。リンパ浮腫の治療に有効なのは、リンパ浮腫専門のセラピスト(医療者)が行う、リンパ液の流れを優しく誘導する用手的リンパドレナージです。

美容目的のリンパマッサージや、こりをほぐすマッサージは、圧をかけて行うため、リンパ浮腫を悪化させてしまう可能性も。注意しましょう。

③ 圧迫下での運動療法

脚や腕の動きに合わせて、筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで、リンパ液が流れやすくなることが分かっています。既にリンパ浮腫を発症している人は、弾性着衣や弾性包帯を着用し、圧を加えた状態で運動を行います。リンパ浮腫治療を行っている理学療法士や作業療法士の指導の下で治療が行われます。

④ スキンケア

リンパ浮腫やリンパ浮腫リスクのある人は、正常の肌に比べて感染症にかかりやすい状態にあります。感染を防ぐためにも普段から肌を清潔に保ち、乾燥や肌荒れを予防しましょう。入浴時は体を強くこすって洗うことは避け、入浴後はたっぷり保湿をしましょう。しっとりやわらかな肌を保つことで刺激から肌を守ることができます。また、毎日肌を触ることによって、状態の変化に気付きやすくなる利点もあります。自覚症状のない0期から取り入れたいケアです。

⑤ 生活指導とセルフケア

リンパ浮腫の正しい知識と、生活の中で注意する点について指導を受け、できることから日常生活に取り入れましょう。リンパ浮腫の症状を改善し、良い状態を維持することは、病院での治療だけでは難しいため、患者も治療に積極的に関わっていく姿勢が大切です。
体重管理や感染予防を始め、【日常動作で気を付けたい浮腫予防】で紹介した注意点に気を付けながら生活していきましょう。

セルフケアの習慣化は容易なことではありません。特にご高齢である場合やお仕事をしている方はなおさらです。しかし、セルフケアをされている方とされていない方とでは、リンパ浮腫の増悪のスピードやリンパ浮腫に対する手術をした後の効果に大きな差が出てきます。セルフケアは毎日の積み重ねが後々大きな違いにつながってきますので、早い時期から習慣化し日常の一部にすることが大切です。

リンパ浮腫は発症すると、長い付き合いになります。過度に恐れたり頑張りすぎると疲弊してしまうことも。治療やセルフケアは医療者と相談しながら、自分に合った方法をライフワークとして取り入れてみて。ケアも人生も、心地よく、楽しむことが何より大事!
リンパ浮腫を発症したら、定期的にリンパ浮腫専門の医療者にかかる環境を整えておくと安心です。

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外科的治療

手術により根本的にリンパの漏れを減らしリンパを流れやすくする治療法で、リンパ管と静脈をつなげるリンパ管静脈吻合術(LVA)が主流です。手術で症状の改善が期待できますが、完全に治ることはなく、その後も複合的治療を続けることが大切です。

<外科的手術が適応されるケースの例>

  • 保存療法を開始しているが、症状が悪化した場合
  • 急速に患肢にボリューム増大が認められる場合
  • 蜂窩織炎を繰り返している場合
  • ICGリンパ管造影で、リンパ濾出を認めるリンパ管の本数が多い場合

① リンパ管細静脈吻合術(LVA)

顕微鏡を用い、リンパ管を細い静脈につなげてバイパスを作り、リンパ液を流す手術です。丈夫なリンパ管がたくさん残っているほどその効果が高く、重症では効果が得にくいとされています。局所麻酔で受けることができ、傷口が小さく体への負担が少ないこともメリットです。

近年、軽症のうちに行うLVAを行うことで、リンパ浮腫の発症や増悪を防いだり圧迫療法の負担を減らせるという報告が増えてきています。ただし、依然エビデンスレベルは低いため、適応があるかどうか含め担当医との綿密な話し合いがまずは大切です。

② 血管柄付きリンパ節移植術、リンパ管移植術

体の他の部位から採取した健康なリンパ節やリンパ管を、浮腫の部位に移植する手術です。重症な部位でも効果が期待できるため、LVAで改善が難しい場合に検討されることがあります。移植先での血管吻合を必要とするため、全身麻酔を用いた大掛かりな手術になり、採取先と移植先の2か所に傷が残ります。

③ 脂肪吸引

リンパ浮腫が進行すると、そのエリアに皮下脂肪がたまり、ますますリンパや血管を圧迫して重症化するという悪循環に陥ります。①や②でリンパ液の流れを改善しただけでは、脂肪を減らすことができないため、重度の場合は脂肪を吸引して取り除きます。また、体重を増やさないために日頃の運動や食事などセルフコントロールが最も大切です。

④ 新しい治療への期待

現在、世界中で、リンパ管の新生を誘導する医療材料の開発や、リンパ管の再生医療の研究が進められています。これらが進めば治療の選択肢が広がり、重症なリンパ浮腫であっても、従来よりも低侵襲な治療が可能になる日が来ると、期待されています。

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5. リンパ浮腫の合併症

リンパ浮腫に伴い、合併症が起こることがあります。
こんな症状に気付いたら、すぐに受診しましょう。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

小さな傷から細菌が入ることで起こる皮膚の炎症で、リンパ浮腫の代表的な合併症です。
リンパ浮腫を発症している部位は肌が薄くあれがちで、小さな傷からでも細菌が侵入しやすくなっています。さらに感染防御機能が低下しているため、細菌が入り込むとあっという間に増殖(感染)し、それらをやっつけるための免疫反応として炎症が起こります。蜂窩織炎は繰り返すことでリンパ浮腫を悪化させる傾向にあるので、日頃からスキンケアと正しい生活習慣で炎症を起こさないように心がけましょう。

症 状

一度炎症を起こすと、熱をもったむくみが広い範囲に生じ、真っ赤に腫れることや、ぼつぼつと赤い発疹ができることもあります。その他の身体症状として、腫れた部位を触ると痛い、触らなくても痛い、全身の倦怠感や38度以上の高熱になることもあります。

治 療

炎症部分を冷やし、抗生物質で治療します。蜂窩織炎は症状の進行が速く、複合的治療やセルフケアで炎症が悪化する可能性があります。炎症の兆候が現れたら、スキンケア以外の治療やセルフケアはお休みし、安静にし、速やかに医療機関を受診しましょう。普段からスキンケアで肌のバリア機能を高めることと、疲れをためない生活の心がけが予防につながります。

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リンパ漏

リンパ浮腫を起こしている皮膚に衣類のこすれや傷などが付くことで、体液やリンパ液が皮膚表面から漏れだす症状です。気付かぬうちに透明や薄黄色の体液で衣類が湿っていることで気付くこともあります。傷口から細菌が入り蜂窩織炎になることもあるので、気付いたら受診を。

治 療

液が染み出ている場所を清潔に保ち、保護剤やガーゼで保護します。

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象皮症

リンパ浮腫が重症化した部位の皮下組織がたんぱくの影響で繊維化し、硬くデコボコしたり、イボやかさぶたができる状態です。蜂窩織炎を繰り返すことでその傾向が強くなると言われていますが、発症には個人差があります。

治 療

清潔をこころがけ、硬くなった皮膚を柔らかく保つために、軟膏などを塗り傷ができないように保護します。症状が進行していてもあきらめず複合的治療を継続することが大切です。

 

制作・監修

【記  事】山崎 多賀子
【イラスト】小山 紀枝
【医療監修】林 明辰(亀田総合病院/亀田京橋クリニックリンパ浮腫センターセンター長,東京リンパ浮腫手術センター)

敬称略

参考文献・参照先

  • 「リンパ浮腫診療ガイドライン2018年版」日本リンパ浮腫学会編
  • 「Q&Aで学ぶリンパ浮腫の診療」日本がんサポーティブケア学会編
  • 「リンパ浮腫マネジメント~理論・評価・治療・症例~」ヨアヒム・E・ツター/スティーブ・ノートン著 ガイアブックス
  • 「リンパ浮腫のすべて」光嶋勲著 永井書店
  • 「よくわかる最新医学 リンパ浮腫 保存療法から外科治療まで」廣田彰男/三原誠/原尚子監修 主婦の友社
  • 「リンパ浮腫のことがよく分かる本」宇津木久仁子著 講談社
  • 「リンパ浮腫 術後のセルフケアと運動」廣田彰男監修・著/高倉保幸著 法研
  • 「イラストでわかるリンパ浮腫」廣田彰男監修 法研
  • 静岡県立静岡がんセンター がん手術後のリンパ浮腫

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